新居昭乃 X 保刈久明
『ミツバチの羽音』スペシャル対談☆
2022.4.13更新
以下 A:新居昭乃 H:保刈久明
――あいさつ――
H 全部自分でやるアルバムを作りたいって言い出してから、何年経ったのかわかんないけど(笑)やっと完成した『ミツバチの羽音』について、話して行きたいと思います。
A よろしくお願いします。
――アルバムのコンセプトって?――
H まず、アルバムのコンセプトみたいなものが先にあったのか、そのへんどうなんですか?
A 全部自分でやりたい、っていうのがコンセプトだったんだけど、、、そうはならなかった。
H オレが2曲、作編曲で参加してはいるけど、他は全部昭乃さんのアレンジだし、新居昭乃カラーがふんだんに詰まったアルバムと言えるんじゃないでしょうか。
A そう感じてもらえるといいんだけど。
H じゃぁ、音的には? たとえば映画とか小説とか、何かイメージはなかったんですか?
A タイトルにも反映されてるけど『ミツバチのささやき』っていう映画、私の心の1作ね。
(細海)魚くんがよくライブしてる下北沢のleteがその映画をコンセプトに作られた場所で、魚くんのライブ見せてもらってた時に、何かドアが開くみたいに、『ミツバチのささやき』を見ている時のような気持ちでアルバム作るのがいいなって。そこからちゃんと、アルバム作ろうってモードに入った感じになったかな。映画の内容とは関係ないものにはなったけど、そこは重要ではないので。
H ということは映画そのもののイメージでできた曲を集めたというわけではない、ってこと?
A そう。その前に作ってた曲もあるしね。
H なるほどね。あらためてこういう話を聞くのって初めてだけど、どうなの? 今までメジャーで出してたアルバムも、特にコンセプトが先にあって作ってたわけじゃないのかな?
A それがあったのは『鉱石ラジオ』しかないかも。あれも保刈くん主導だったし、そういうふうに作ったことないかもしれない。
H 長年アルバムを作ってきたわけじゃない? ってことはライブとかアーティスト活動する中でイメージが湧いたりした時に、曲が1曲ずつたまってって、それが昇華して、アルバムになる。っていうやり方なんですかね?
A そうです!
H あーオレとは真逆だよね、あ、オレの話ししてもしょうがないんだけど。
A いえ、してください。
H オレはね、アニメや映画ありきの仕事をして生活して来てたから、あらためてソロの作品作ろうとした時に、逆にコンセプトがないと作れない感じで。すべてが繋がってるわけじゃないけど、そういうモードになることが多いんだよね。だからコンセプト無しで作れるって不思議だなって思うね。
A ピュアハートレーベル自体がね、私が自由に遊べる場として作ってもらったんだけど。そもそも遊びでしか音楽作れないのかもしれない。メジャーもインディーズもなく。昔は曲のほうから勝手に生まれて来てくれた感じがあったんだけど、今はイメージが先に生まれて、そこに曲を近づけて行くっていう方向になってるのね。なので1曲1曲には、そういう意味でコンセプトがあるのかも知れない。
――アルバムができて、どうでしたか?――
H そういうことでね、アルバムコンセプトは特になかったっていうことで、『ミツバチの羽音』ができたわけですけども(笑)、できてみて、仕上がりとか、自分のやりたかったこととか、達成感とか、どんな感じですか?
A 8割自分でアレンジできたことがちょっと嬉しいっていうのがあったり。アレンジってほどのことでもないけど(笑)
H いやぁちゃんとアレンジしてますよ
A それと、今までは *ゆかちゃんっていうディレクターがいて、歌詞でも、何に関しても、ゆかちゃんの意見を聞いてね、納得したものは変えていったり、それとかミュージシャンに演奏してもらうと、思ってたのとは違う感じになったり。いい意味でね、自分のコントロール外のことがね、、、
H 人に参加してもらうと自分では思いつかなかったことになったりすることがよくあるね。
A うん、でも今回は最初にイメージしたまんま、そのまま出来上がったので、自分に近いアルバムって言えるのかもしれない。
*ビクター&フライングドッグの井上裕香子さん
――音作りについて(1)――
H 昭乃さんが作ったトラックね、今までだったらサウンドプロデューサーとして、そこから自分で色々と変えて発展させて行ったりしてたんだけど、今回は敢えて、そういうことしないようにしたんだよ。 だから例えば「ほんとはもうちょっとこうしたいのかな?」みたいなね(笑)「ここはきっと霧のような感じにしたいんだろうな」とか、そんな感じを汲み取りながら、相談しながらやったんだよね。
A ピアノにエフェクトかけてもらったり、それはもう言わないでも、ミックスでやってくれたりしてたので、汲み取ってもらえるっていうのはほんとに有難いなって思いました。
H すごく感心したのは『ミツバチの羽音』って曲の、頭の部分で、けっこう面白い音作ってるじゃない?
A そう?わーありがとうございます!
H どうやって作ったの?って思って。あれかっこいいね、ほんとにミツバチの羽音みたいな、迫りくるようなね、なんかドキドキするような。ああいうの作れるんだなって感心しました。
A 保刈くんに教えてもらった手法だけど? 逆再生の(笑)
H あと面白かったのは、唯一リズムっぽい音が入ってる『dream, dream』ね。昭乃さんが打ち込んだ『あらいあきののプログラミング』って言えるリズムトラック。最初に聞いた時は、「キックはもうちょっと深い音を足して、クラップみたいな音は遠めにしてちょっと派手な感じにして、変則的に入ってるハットは潰したらかっこよくなるんじゃないか」と思って、やってみたの。
A えっ、そうなんだ?!
H そしたら、全然ダメで。
A えっ、聞いてみたかった。
H 『あらいあきののプログラミング』ではなくなって。当たり前だけど。
A うーん、そうでしょうね。
H 曲のイメージも変わっちゃって、これではいけないんだなと思って、それはもうやめたわけ。
A 人知れずそんな逡巡があったんですね。
H 『あらいあきののプログラミング』に多少お化粧はしたけど、アルバム全体通してなるべくデモのイメージを損なわないように、、、
A えっ、デモじゃなくて!完成形だと思って作ってるんだけど(笑)?
H あーごめん、ごめん。
A 私が作ってきたものを、なるべくイメージを変えないようにしてくれてたんだね。ありがとう。そんなに試してみてたって知らなかった。
H けっこう試したよ。
A (笑)
H オレだったらこうやるな、っていうことが誰だってあるじゃない? もしかして昭乃さんがイメージしたものにもっと近くなるんじゃないか、とかね。でもそれが全然うまく行かなかったんだよね。
A 保刈くんのテイストとは違うものを作ってくるわけだから、音を変えたら『保刈久明のプログラミング』になっちゃうよね。
H そう。『あらいあきののプログラミング』っていうものがちゃんと存在してて、それは壊しちゃいけないんだなって、今回感じました。以上です。
A (笑)
――音作りについて(2)――
A 保刈くんが1から作ってくれた2曲に関して、なんだけど、*『Silent Choir』のために作った曲だったから、アルバムに入れるっていうのは「聞いてないよ」って感じだったと思うけど(笑)曲を作った時はやっぱり『Silent Choir』っていうことを意識した?
H もちろん。クリスマスっていうこともあって、声の多重録音で音作りしていこうってことになって、それまで意外と、やってそうでやってなかったし、面白いんじゃないかなってね。編成も薄くして。普通、弦カルとかにするんだろうけど、バイオリンとチェロだけで隙間を作って。 久しぶりにお客さんがいるライブだったから、会場に響く音が減衰して消えて行くまで聞いてもらえるような、そういうイメージで、『薔薇の名前』をまず作ったんだけど。
A 曲を聞いて『薔薇の名前』って浮かんだよね。映画にもなった、元は小説のね。保刈くんにしか作れないような曲だよね。
H 『金の糸の話』もね、ギター入る前の部分は声の多重でハーモニーを作るっていうことをしてるから、、。ただちょっとオレ今マイブームで、フォークロア的な、古いアイリッシュとか、そういうネイティブなトラックが新鮮に感じてるとこがあって、『金の糸の話』は、それが出てるかもしれない。
A うーん、フォークロアって言っても保刈くん独特の世界だよね。コーラスの重ね方とか。こんな曲作ってもらえて幸せだなって思います。
*2021年12月25日に行われたライブ
――ハープ、バイオリン、チェロについて――
A 今回はね、*マー君と結城さんとはファイルでやり取りさせてもらって、**友加さんだけは、ハープを***おうちに録りにに行かせてもらったね。
H 素晴らしいレコーディングでしたね。
A 影山さんのオペレーションが秀逸で、、ほんとに何をやっても優秀な方なんだなって思ったのだけど、、、
H そう、マイクのセッティングなんかも、こんなふうに並べるんだな、って勉強になった。
A それにね、人となかなか会えない中でね、すごく貴重な時間になった。
H ハープの音も演奏もとっても素晴らしいので、そこは聞いてもらいたいとこですね。
A 『ミツバチの羽音』の後半のグリッサンドね、2回重ねてもらってて、そこも聞き所になったと思ってます。
H それからマー君と結城さん。ふたりにはご自宅で演奏を録ってもらって、ファイルで送ってもらってね、もうスタジオと比べても遜色ない位のクオリティで、そういう時代なんだなってあらためて思いました。
A 私ね、コロナになってから、結城さんがおうちで演奏してる動画をアップされてたのを見たことがあって、おうちでこんなにいい音で録れるんだ!って思ってたの。マー君もね、ずいぶん前にいい機材揃えたって聞いてたし。二人にはおうちで録ってもらうようにお願いしよう、って思ったの。
H 本当はね、二人同時に演奏してもらうのが良かったのかもしれないけど、マー君が「結城さんの演奏なら合わせられる」ってことだったんで、最初に結城さんに演奏してもらってね、別々にもらったんだよね。
A ふたり合わさってとても音楽的だった。
H けっこうイレギュラーなことをしたけど、イメージ通りにちゃんとできたと思ってます!
* バイオリン:藤堂昌彦さん チェロ:結城貴弘さん
** ハープ:吉野友加さん
*** tico moon 吉野友加さんと影山敏彦さん、お二人のご自宅
――歌のレコーディングについて――
A 今回、ぜ~んぶ歌を録ってくれたじゃない?
H ホスタでね。
A ありがとうございました。
H はい。
A その作業の間、私が歌を歌ってる間って、何か感じたこと、ありましたか?
H それは~、いっぱいありますよ。
A (笑)何かな?
H 昭乃さんの声は高いほうの倍音ももちろんあるんだけど、中低音がすごく大事で魅力なんだよね。なんだけど、昭乃さんの作るトラックって、中低音が多いんだよ。 パーン!とした音が嫌いで、ちょっとオレがそっち寄りにすると「固すぎる」って言うから、悪い言い方するとモコモコしちゃうんだよね。 だからそこをうまくブレンドしないと、、
A すべてがモコモコ、、、。
H オケの中での、歌の埋まり具合の調整がね、うまく馴染んで歌を邪魔しないように、しかもオケはオケで成立するようにっていうことを考えながら、レコーディングしてました。
A 歌を録る段階から、そういうところに気を使ってたんだね。
H うん、マイクの位置がちょっと違っても変わるから。
A 何回も調整しながらやってたもんね。
H これまではね、全部スケジュール組んでやってたけど、今回はね、ホスタだから。調子が悪かったらやめればいいし、っていうね、リラックスできる状況でできたのかなって。限られた環境と機材しかないんだけど。そのへんはどうだった?
A ほんとにね、相当楽だった。録れそうなら録ろうかっていう感じでやってもらえたのは、だいぶ楽だった。
H 昭乃さんはメンタル的にもフィジカル的にもセンシティブだから、心配してたんだけど、年末のライブ終わってすぐ作業始めてたし。でも体調も喉の調子も良かったから「きょうやめようか」なんてことは1回もなかったね。
A やっぱり気の持ちようなのかもね、、、。それがすごく大きいかも。
――ミックス、マスタリング作業について――
H 今回はレコーディング、ミックス、マスタリングまでわたくしがね、やらせてもらったんだけど、特にマスタリングね、さっき言ったように難しいとこがあったんだけど。
A モコモコ問題、、、。
H 今チャートを賑わしてる、そういう若い人たちって、ソフトやハードの使い方も革新的で、音もでかいし分離も良くてクリアなのね。マスタリングって、昔は各曲同士の音のバランスを揃える作業だったはずなんだけど、今はもうそれを通り越して、いろんなことができるしね。 例えば歌を大きくしたりだとか。
A そんなミックスみたいなことをマスタリングでできちゃうんだ?
H でも昭乃さんの音楽って、そこの、チャートを賑わしてるようなとこに合わせる必要もないし、どっちかというとクラシックぽいっていうか、ダイナミクスが大きくて、全体に音圧を上げたりするとその変化が少なくなっちゃう。 そんな感じでね、派手な音にする必要はない、かと言って覇気のない音になるのもつまらない。その丁度いいとこを探すのがすごく大変だった。 ミックスもマスタリングもオレは素人だから、テクニックがあるわけでもないんだけど、これまで自分のアルバムでやってきた経験を総動員して(笑)やったんだけど。大変だった。
A そんなに苦労していたとは。。。
H 結果、相対的には音量は小さめになってるかもしれないけど、その分、音の広がりとか、ダイナミクスとか、楽しんでもらえるといいなって思ってます。
A ヘッドホンのボリューム上げて聞いてもらいたいですね!
H それは自由でいいじゃないですか。
A えっ。
――最後に、ジャケットについて――
H 今回はオレがインタビュアーみたいになっててね(笑)最後に、ジャケットのことだけど、全部自分でやってたじゃない、ちょっとイレギュラーな、封筒みたいになってたりとか、自分で絵も描いてデザインして、そのへんどうだったんですか?
A 封筒みたいにしたい、っていうのが最初にあって、絵も、本当は封筒アートみたいにしたかったんだけど、なかなか難しくて、必死で描いてたら普通の油絵みたいな雰囲気になったの。蜂の絵も描いて切手にして、貼ったりしてみたんだけど、、
H それはいいアイデアだったじゃない。あれ消印もあったじゃない、発売日になってるんだよね。
A よくお気づきで。
H それはわかりますよ(笑)
A なんかね、みんなに届くようにっていうか、聞いてくれる人に出すお手紙っていうかね。
H なんですか、、『音のお便り』ってことですかね。
A あはは(笑)そう。
H オレ今うまいこと言ったな。でもそういうことでしょ? 昭乃さんから音のお便りが届いたんだって思ってもらえたらいいんじゃないの?
A ね。
H お便りを音で聞いてくださいってことでしょう?
A うん、そう!
H 素晴らしいじゃないですか。
A ありがとうございます!
H オレがまとめてるじゃないか。まぁいいけど。
A (笑)あのね、ジャケットにローマ字で「そこはあなたのサンクチュアリ」って書いてあるの。
H うん。
A 『ミツバチの羽音』の歌詞なんだけど。
H うん。
A ちょっと気に入ってるんだよね。
H そうですか。じゃぁそれは良かったじゃないですか(笑)
■ リリース情報 オリジナルアルバム
「ミツバチの羽音」
CD / ¥3,000 (tax in)
ハイレゾ / ¥3,500 (tax in)
3月27日発売
Pure Heart Label STORE
https://pureheart-label.stores.jp
アルバムトレーラー
https://youtu.be/7f_Dmsn7gwE
■ 新居昭乃 LIVE 2022 アルバムリリースライブ
『ミツバチの羽音』
配信チケット:¥2,500
※視聴チケットは詳細はこちらのホームページでご確認ください。
https://zaiko.io/event/347081
■ 新居昭乃 LIVE 2022 『Once in a Blue Moon』
5月7日(土)Billboard Live YOKOHAMA
▼出演者
新居 昭乃(vocal,keyboard)
影山 敏彦(guitar)- tico moon
吉野 友加(harp)- tico moon
楠 均(drums)
▼開演時間
・1stステージ-16:30
・2ndステージ-19:30
▼料金
サービスエリア¥7,400
カジュアルエリア¥6,900(1ドリンク付)
※ご飲食代は別
Billboard Live Official Web
http://www.billboard-live.com/